Update from the President

石谷 邦彦 先生
The International Research Society of the SCPSC理事長
医療法人東札幌病院 理事長


 

 

がん緩和ケアと腫瘍免疫
 
はじめに
近年のがん免疫療法の目覚ましい発展は医療関係者のみならず一般市民も広く知るところとなっています。がん緩和ケアの分野もがん免疫療法との関わりを研究する時代となりました。かって私は腫瘍免疫研究に携わっていました 1)、それ以来母校の札幌医科大学病理学講座の腫瘍免疫研究を学んできました 2)。今回はその経験から最近のがん緩和ケアと腫瘍免疫について概説致します。
 
緩和ケアの思想と腫瘍免疫
緩和ケアはいわゆる人間の“生老病死(仏教用語の四苦)”をケアし「人間の尊厳」を担保する行為です。そして緩和ケアの思想は免疫系のそれと軌を一にすると思います。免疫系は非自己を排除する生体防御システムです。しかし、がん細胞は免疫抑制機構を活用して増殖し、さらに免疫系から逃避し自己化して増殖します。そして免疫系はがん免疫療法が功を奏するとしても、それらすべての経緯、すなわち“生老病死”を見守り「人間の尊厳」を担保しています。
 
光彩奪目のがん免疫療法
歴史的にホスピス・緩和ケアは多くの疾病を対象にしつつ、がんを中心に発達してきました。それは“痛み”という人間にとって心と身体への負担が最も象徴的に感覚される疾病であったからでもあります。そのがん緩和ケアが近年生物学に重きを置いて新しい時代に入っていることはすでに述べてきました。 3)そのバックボーンとなる腫瘍学において、腫瘍免疫学の進歩はとくに顕著であり、がん免疫療法によって、たとえステージⅣのがん患者でも完全治癒を思わせる長期生存者が出現しています。 2016年の Samuel JHarrisの“ Kaplan-Meier法の生存曲線の尾を上げる”という論文 4)はあまりにも有名です。発端は 2014年の最初の免疫チェックポイント阻害剤( Immune Checkpoint Inhibitor, ニボルマブ (Nivolumab)の登場でした。さらに 2017年に CAR-T 細胞療法(キメラ抗原受容体導入 T細胞療法、 Chimeric Antigen Receptor-T cell therapy)薬 , チサゲンレクルユーセル(Tisagenlecleucel)、 2024年には TCR-T細胞療法( TCR遺伝子導入 T細胞療法、 T cell receptor-T cell therapy薬、アファミトレスゲンオートルーセル(Afamitresgen autoleucel)が上市されるなど、この間のがん免疫療法の成果には目を見張るものがありました。しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤の効用は現在のところ限られています。なおかつ免疫関連有害事象 (immune related ad verse effect)には自己免疫反応に関連した重篤な有害事象などの大きな問題を孕んでいます。その後の CAR-T細胞療法、 TCR-T細胞療法のそれらの検討は緒についたばかりです。
 
腫瘍免疫学の現在
腫瘍免疫学は基礎的な免疫応答研究の歴史から臨床応用への研究に急速な発展を遂げています。例えば、図に示すがん免疫応答サイクル (cancer-immunity cycle)5)という象徴的な概念が広く認知され、腫瘍特異的 T細胞による抗腫瘍免疫応答を 7つのステップで説明しています。①腫瘍抗原の放出( release of cancer cell antigens)、② 抗原提示細胞( antigen presenting cell )による腫瘍抗原の取り込みとリンパ節への遊走 (cancer antigen presentation)、③ T細胞への抗原提示と抗原特異的 T細胞の活性化 (priming and activation)、④活性化 T 細胞の遊走 (trafficking of T cell to tumors)、⑤腫瘍組織への浸潤 ( infiltration of T cells into tumors)、⑥腫瘍細胞の認識 (recognition of cancer cells by T cells)、⑦腫瘍細胞への攻撃 (killing of cancer cells)。以上の 7ステップが図に示されています。このサイクルが回る中で T細胞に攻撃され細胞死を起こした腫瘍細胞は新たな腫瘍抗原を放出し①に戻ります。この一連のサイクルにおいて、いずれのステップが障害されても効果的ながん免疫応答の誘導が困難になり、がんは免疫機構から逃避してしまいます。たとえば、活性化 T細胞に発現される PD-1(programmed cell death 1)は、がん細胞に発現した PD-L1(PD-ligand1)と結合することで T細胞に抑制性のシグナルを伝達します(ステップ⑦の抑制)。免疫チェックポイント阻害剤は、これらの抑制を阻害することで停滞していたがん免疫サイクルを回復しがん免疫応答の再活性化をもたらします。このようにそれぞれのステップで治療に向かう研究とその成果が認められているのです。さらに現在は、新技術であるマルチオミックス解析、シングルセル免疫細胞解析、ゲノム編集技術による遺伝子変換、免疫代謝解析、腸内細菌叢解析などを駆使したリバーストランスレーショナル研究による治療効果予測や治療法選択のためのバイオマーカーの同定、複合的がん免疫療法、新しいがん制御技術の開発などの臨床課題の研究が佳境を迎えつつあります。
 

 
がん緩和ケアにおけるがん免疫療法
近年がん緩和ケア領域に置いてもがん免疫療法の論文が散見されています。 6)-10) その多くは終末期における免疫チェックポイント阻害剤の使用状況に関する調査的な論文です。最近、米国からステージⅣの悪性黒色腫、非小細胞性肺がん、腎細胞がん患者計242371人を対象としたコホート研究が発表されました。それによると終末期の転移性がん患者に対して、より多くの医師が免疫チェックポイント阻害剤を使用するようになっていて、その使用の開始が病態の経過ともに増加していることが報告されました。この傾向はアカデミックな( academic)機関 やハイボリュームセンター ( high-volume center)より非アカデミックな (nonacademic)機関 や低ボリュームセンタ -(low-volume center)に多くみられることが指摘されました。 11) これらは以前から印象的に指摘されてはいました。しかし、このコホート研究は今後の進行がん患者に対するがん免疫療法のあり方に科学的な示唆を与えるものと思われます。 12)
免疫チェックポイント阻害剤のがん緩和ケア領域の臨床応用は可能性を秘めつつも慎重に検討されるべきでありましょう。さらに 将来的にはがん緩和ケア領域においても免疫関連有害事象 (immune related adverse effect)の機序解明の研究を介して薬剤の開発なども含めた新たな研究分野も視野に入れるべきと思います。またがん免疫療法を受ける患者の精神腫瘍学 (psycho-oncology)13)や費用対効果も含めた臨床倫理も始まったばかりです。 腫瘍免疫の知識を十分に理解しがん緩和ケアへのがん免疫療法の適切な提供が求められています。
これらの進捗を鑑みて、がん緩和ケアもパラダイムシフトを迎えるに至った現在であると思われます。
 
終わりに
緩和ケアはがんではなく宿主であるがん患者が対象です。がん免疫療法はがんではなくがん患者の免疫システムが対象です。この類似の構図は真に興味深く、加えて古くて新しい概念“腫瘍 -宿主相互作用 (tumor-host interactions)14)15)16)の根幹をも示していると思われます。さらにこの構図はゲノム研究の革新が腫瘍免疫研究に組み込まれ個別化医療としてのがん医療を考えるとき非常に大きな示唆を与えることでありましょう。
 

References
1, Urushizaki I, Ishitani K et all : Immunosuppressive factors in serum of patients
with gastric carcinoma. GANN. 1977. 68(4), 413-421
2, Miyamoto S, Kanaseki T, Ishitani K, Torigoe T et al : The antigen ASB4 on
cancer stem cells serves as a target for CTL immunotherapy of colorectal cancer.
Cancer. Immunol Res. 2018 .Mar;6(3)358-369
doi: 10.1158/2326-6066.CIR-17-0518.
3, https://blogs.bmj.com/spcare/2024/11/15/autumn-newsletter-of-the-international-research-society-sapporo-japan/
4, Harris SJ, et al : Immuno-oncology combinations: raising the tail of the survival curve. Cancer Bio Med. 2016. Jun; 13(2):171-193.
doi:10.20892/j-issn.2095-3941.2016.0015.
5, Chen DS, Meliman I : Oncology meets immunology: The cancer-immunity cycle.Immunity.2013.39,July25:1-10 http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2013.07.012
6, Davis MP, Panikkar R : Checkpoit inhibitors, palliative care, or hospice. Curr Oncol Rep. 2018. 20:2. https://doi.org/10.1007/s11912-018-0659-0
7, Glisch C, et al : Immune checkpoint inhibitor use near the end of life is associated with poor performance status, lower hospice enrollment, and dying in the hospital. Am J Hosp Palliat Care .2020.37:179-184
https//doi.org/10.1177/1049909119862785
8, Petrillo LA, et al : Performance status and end-of-life care among adults with non-small cell lung cancer receiving immne checkpont inhibitors. Cancer. 2020
126:2288-2295. https://doi.org/10.1002/cncr.32782
9, Auclair J, et al : Duration of palliative care involvement and immunotherapy treatment near the end of life among patients with cancer who died in-hospital.
Support Care Cancer. 2022. Jun;30(6):4997-5006.
doi : 10.1007/s00520-022-06901-1
10, Zanichelli A : The role of immunotherapy in palliative care for cancer patients.
Immunome Res. 2023.Mar;19(222). doi: 10.35248/1745-7580.23.19.222
11, Kerekes DM, et al : Imunotherapy initiation at the end of life in patients with metastatic cancer in the US. JAMA Oncol.2024;10(3):342-351.
doi: 10.1001/jamaoncol.2023.6025
12, Harris E : Gaps exist in end-of-life immunotherapy treatment for cancer. JAMA.2024;331(6):467. doi:10.1001/jama.2023.27972
13, Sun W, et al : Symptoms of hematologic tumors patients after CAR-T therapy:
A systematic review and meta-analysis. J Pain Symptom Manage. 2025 Mar;69(3):304-317.doi: 10.1016/j.jpainsymman.2024.11.002.
14, Sassenrath EN, et al: Tumor-host relationships: . Composition studies on experimental tumors. Cancer Res. 1958 May;18(4):433-439
15, Hiam-Galvez KJ, et al : Systemic immunity in cancer. Nat Rev Cancer.2021 Jun;21(6):345-359.doi:10.1038/s41568-021-00347-z
16, Celebrating a decade of the Journal for Immuno Therapy of Cancer JITC. 2022. May; 10(5)eoo5207.doi; 10.1136/jitc-2022-005207

 


「第5回がん緩和ケアに関する国際会議」のご案内

国内外を問わず多くの皆様からご参加のお申し込みをいただき、心より感謝申し上げます。皆様のご関心とご支援に、事務局一同、深く御礼申し上げます。
今号では、前号に引き続き「5th SCPSC 2026」の開催概要をお届けいたします。参加申し込みは現在受付中ですので、ぜひお早めにご登録いただけますようお願い申し上げます。また、一般演題の申し込みもお待ち申し上げております。皆様の貴重な研究成果を発表していただけることを、心より楽しみにしております。
なお、選考を経て発表される一般演題は、BMJ Supportive & Palliative Care に掲載される予定です。
発表者にとって国際的な評価へとつながる機会であり、緩和ケア領域における重要な研究成果を世界に発信する場となることが期待されます。

 
以下のバナーをクリックして、詳細をご覧ください。
 

Topics

興味深い研究論文をご紹介します

1, CAR T Cells and T-Cell Therapies for Cancer A Translational Science Review
JAMA. 2024;332(22):1924-1935. doi:10.1001/jama.2024.19462
 
2, Assessing the oncogenic risk: the long-term safety of autologous chimeric antigen receptor T cells
Lancet Volume 405, Issue 10480 p751-754March 01, 2025
DOI: 10.1016/S0140-6736(25)00039-X
 
3, Symptoms of Hematologic Tumors Patients after CAR-T Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis
J Pain Symptom Manage. 2025 Mar;69(3):304-317
doi: 10.1016/j.jpainsymman.2024.11.002.
 
4, Long-Term Toxicity of Immune Checkpoint InhibitorsTime to Widen the Lens
JAMA Oncol. Published online February 27, 2025. doi:10.1001/jamaoncol.2024.6809
 
5, Opioids and Immunosuppression: Clinical Evidence, Mechanisms of Action, and
Potential Therapies
Palliate Med Report Published Online: 2 February 2024
doi:10.1089/pmr.2023.0049
 
6, Palliative Care in Hematology: A Systematic Review of the Components, Effectiveness, and Implementation
Journal of Pain Symptom Manage. 2024 Jan;69(1):114-133.e2
doi:10.1016/j.jpainsymman.2024.08.025
 
7, Cardiac dysfunction in solid tumors: scoping review
 BMJ Supportive & Palliative Care 2025;15:168–177.
doi:10.1136/spcare-2023-004440.
 

 Topics contimued

8, Artificial Intelligence and Machine Learning in Cancer Pain: A Systematic Review
J Pain Symptom Manage 2024 Dec;68(6):e462-e490.
doi: 10.1016/j.jpainsymman.2024.07.025.
 
9, Machine Learning for Targeted Advance Care Planning in Cancer Patients: A Quality Improvement Study
J Pain Symptom Manage. 2024 Dec;68(6):539-547.e3 
DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2024.08.036
 
10, Should Artificial Intelligence Provide Input in End-of-Life Decision-Making?
JAMA Intern Med. Published online January 6, 2025. 
doi:10.1001/jamainternmed.2024.5906
 
11, Expanding Palliative Care AccessBridging Gaps in Diverse Clinical Settings
JAMA. Published online January 15, 2025. 
doi:10.1001/jama.2024.24947
 
12, Cancer registries: the bedrock of global cancer care
The Lancet /2025 Volume 405, Issue 10476 p353 February 01.
DOI: 10.1016/S0140-6736(25)00189-8
 
13, Genomic Study in Opioid-Treated Cancer Patients Identifies Variants Associated With Nausea-Vomiting
J Pain Symptom Manage. 2025 Feb;69(2):175-182.e5.
DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2024.10.033
 
14, Large-Scale Pharmacogenomics Analysis of Patients With Cancer Within the 100,000 Genomes Project Combining Whole-Genome Sequencing and Medical Records to Inform Clinical Practice
Journal of Clinical Oncology/Volume 43, Number 6 .Oct. 2024
doi:10.1200/JCO.23.02761
 

Thrilling News: A Joyous Announcement!

BMJSPCare は、がん緩和ケアに関する国際研究学会(IRS-SCPSC)と提携し、ニュースレターをBMJSPCフォーラムで共同発行しています。

2025年3月4日、SCPSCニュースレター冬号がBMJSPCareフォーラムに掲載されました。


 Member's News

🔹 Newsweek Japanに掲載されました!

〜マーク・タウバート先生インタビュー〜



Dr. Mark Taubert
(Cardiff University School of Medicine, UK / Vice-President of the European Association for Palliative Care)
 
📅 掲載日: 2025年1月24日
📝 記事の概要:安楽死を巡る議論が注目される中、タウバート先生は「普通の死」への理解の重要性を語っています。死との向き合い方に新たな視点をもたらし、深く考えさせられる内容です。
🎤 来日情報:2026年札幌で開催される第5回SCPSCにて講演予定です。
貴重な機会をどうぞお見逃しなく。
▶️ 記事はこちらからご覧いただけます:
Newsweek Japan記事リンク


History

「ホスピス/緩和ケアの先駆者たち――歴史認識の新たな系譜学」
過去は現在をかたちづくり、現在はつねに変容の過程にある。その変容の中から、未来への展開を見出すことができる。ゆえに、過去は不断に再評価されなければならない。系譜学とは、このようにして現在に介入するものである。— ミシェル・フーコー『知の考古学』¹
 
本号では、ヨーロッパにおけるホスピスの歴史的展開に焦点を当てます。
その中心としてご紹介するのが、フランス・パリ15区に位置する〈メゾン・メディカル・ジャンヌ・ガルニエ〉です。
1874年に創設された本施設は、年間約1,000名の進行期・末期患者のケアに携わり、今日ではフランス緩和ケア協会(SFAP)の本部が置かれるなど、同国の緩和ケアを牽引する存在となっています²
運営を担うのは、1842年にジャンヌ・ガルニエによって設立された〈カルヴェール夫人協会〉。1988年には〈ザヴィエールのコミュニティ〉が協力団体として加わり、その精神的基盤をいっそう豊かにしました³
この施設では、ルスティジェ枢機卿やジャン・ヴァニエ氏といった、20世紀を代表する宗教・福祉のリーダーたちも、その最期のときを過ごしたことが知られています
 
Footnotes

[1] Michel Foucault, L'archéologie du savoir,
(邦訳:ミシェル・フーコー『知の考古学』)
[2] Maison Médicale Jeanne Garnier,
公式ウェブサイト
(最終アクセス:20255月)
[3] Maison Médicale Jeanne Garnier, 公式ウェブサイト
(最終アクセス:2025年5月)

[4] “Les grandes figures de la Maison Jeanne Garnier,” Association Monsieur Vincent, 2023
3月公開

Dr. Sarah Dauchy(サラ・ドーシー/Maison Médicale Jeanne Garnier)の監修のもと、広報担当のCamille Bayle(カミーユ・バイユ)さんにご執筆いただいた記事を、右側に掲載しております。
併せて、施設のお写真もご提供いただきました。ぜひご覧ください。

Jeanne Garnier 施設の外観
(提供:Maison Médicale Jeanne Garnier)
Jeanne Garnier 施設の外観
(提供: Maison Médicale Jeanne Garnier)
施設のお庭で患者さんと家族が安らぐ時間
(提供: Maison Médicale Jeanne Garnier)
パリの風情を感じる、美しい薔薇が咲く素敵な施設のお庭
(提供: Maison Médicale Jeanne Garnier)
 

メゾン・メディカル・ジャンヌ・ガルニエ


Supervision : Dr. Sarah Dauchy
Maison Médicale Jeanne Garnier
Written by: Camille Bayle
Head of Communications (Maison Médicale Jeanne Garnier)
 
 
 パリ 15区に位置するメゾン・メディカル・ジャンヌ・ガルニエは、緩和ケアに完全に特化した集団的利益を目的とする民間医療機関です。当施設は、終末期医療における思いやりのあるケアに長年取り組んできた「 アソシアシオン・デ・ダーム・デュ・カルヴェール(カルヴェール婦人会)」として知られる非営利団体によって運営されています。
当施設は 150年以上にわたる豊かな伝統を受け継いでおり、癌に苦しみながらも、病院に受け入れられず、支援も得られないことが多かった女性たちをケアするため、 1842年にリヨンでアソシアシオン(団体)を設立したジャンヌ・ガルニエにちなんで名付けられました。パリ支部はオーレリー・ジュセによって設立され、 1874年に正式に開設されました。
1996年の再建以来、メゾン・メディカル・ジャンヌ・ガルニエは 18歳から 105歳までの約 3万人の患者を受け入れ、治療してきました。今日では、ヨーロッパ最大の緩和ケア施設となっています。
 
倫理的取り組みと使命
メゾン・メディカル・ジャンヌ・ガルニエは、終末期医療に関するフランスの法律、特に レオネッティ法およびクレス=レオネッティ法に則って活動しています。倫理的省察を促進し、緩和ケアに関する国家開発計画にも積極的に貢献しています。
当施設の使命は、以下のような、人間に対する確固たる価値観に根ざしています。
  • 文化、国籍、宗教、信条にかかわらず、すべての患者とその愛する人をケアし、サポートすること。
  • 一人ひとりの患者を尊厳と敬意に値するかけがえのない存在として認めること。
  • 死を早めたり、人工的に延命させたりすることなく、苦痛を和らげ、生活の質を向上させること。

 
施設と主要数値
当施設は、以下のような複数の専門サービスで構成されています。

  • 6つの緩和ケア病棟(合計81床)
  • 外来部門
    • 緩和ケアデイホスピタル(定員6名)
    • 緩和ケアの外来診療
  • 社会医療センター
  • アルツハイマー病デイケアセンター(定員23
  • 介護者のためのレスパイト(一時休息)プラットフォーム
  • モバイル緩和ケアチーム: 4つの提携医療機関で活動し、年間1,000以上の患者をケア
  • 地域モバイル緩和ケアチーム: 在宅ケアを提供
  • 100人以上のボランティアが、そばにいて話し相手になり、精神的サポートを提供

当施設は、毎年以下のような対応を行っています。

  • 入院件数: 1,403件、デイホスピタル件数: 461
  • 患者の83%が癌患者
  • 平均入院期間: 16
  • 年間予算: 1,800万ユーロ

当施設は、以下の従業員を雇用しています。

  • 介護士146名、医師34名を含む228名の有給職員

教育と研究の拠点
ケアの提供にとどまらず、ジャンヌ・ガルニエは教育と研究の分野においても重要な役割を果たしています。

  • 緩和ケアスクールを併設しており、設立以来16,000人以上を育成
  • 教育・研究部門を運営しており、緩和ケアの実践における改善と革新に焦点を当てた約10件の研究プロジェクトが進行中

大きな志を持った進行中のプロジェクト
誰もが早期に、それぞれのニーズに合った質の高い緩和ケアを受けられるよう、ジャンヌ・ガルニエは将来を見据えた複数のプロジェクトに取り組んでいます。

  • デイホスピタルケア、診療、地域モバイルチームを通じた在宅支援の拡充
  • フランス国内および国際的に緩和ケアスクールを拡大し、より多くの専門家を育成
  • 生活と寄り添いの両方に焦点を当てた、長期緩和ケア患者のための新たなホームの創設
  • 研究と教育を通じて、老人ホームにおける早期かつ統合的な緩和ケア(EHPADを推進

 


Announcement from the SCPSC Team

皆様、いかがお過ごしでしょうか。
本号では、理事長による「がん緩和ケアと腫瘍免疫」の考察が特に印象深く、医療の最前線で進む科学的進展と、「人間の尊厳」に向き合うまなざしとの交差に深い示唆を感じました。
本号が皆さまの活動に少しでもお役立ちできれば幸いです。ぜひご一読ください。(Yukie Ishitani)